緑内障手術

「緑内障インプラント手術」について

当院で施行している観血的緑内障手術は、2012年から保険適応になった最新の手術手技、「緑内障インプラント手術」、特にその中でも日本で最も使用されている「Express®」を採用しております。 日本緑内障学会会員である院長が全例執刀しています。 通常の(眼圧や視野の状態、隅角の状態などで例外はございます)緑内障治療方針は「点眼」です。1種類から開始して、視野障害が悪化すれば2種類、3種類と追加し、それでも悪化すればレーザー治療(レーザー線維柱帯形成術=隅角光凝固術)、それでも悪化した場合に観血的緑内障手術を施行します。症例により(特に眼圧15mmHg以上の方)、点眼では到底達成できないような眼圧下降が得られます。白内障手術のように視力がよくなる手術ではないので、患者さんから感激され喜ばれる手術ではありません。ただし長期的に視野を維持し失明防止をはかるには大変重要な治療であることは間違いありません。進行した白内障がある場合は白内障手術を併用した方が、眼圧下降効果や「Express®」の前房での安定 性が向上しますので併施することを強くお勧めします。 (Express®挿入術単独で1割負担で約3.6万、3割負担で約11万円です。)

1.緑内障手術について

緑内障手術の目的は、眼圧を下げることによって、視神経に対する負担を軽くし、視野や視力をなるべく長い間維持させるということです。緑内障手術の種類にはいろいろありますが、ここではステンレス製緑内障インプラント「Express®」挿入手術の概要を説明します。

2.緑内障インプラント医療機器の使用目的

この緑内障インプラントは「アルコン エクスプレス®緑内障フィルトレーションデバイス」と言い、下記のような形状をしたステンレス製の手術機器です。

この手術機器を眼内に挿入し、人工的に房水(目の中の液体)を目の外に排出することで、眼圧を下げ、視神経障害の進行を止める、あるいは遅らせる効果があります。

この緑内障インプラント手術機器は、眼圧を下げるための緑内障のお薬やレーザー治療などの治療法でも十分に眼圧が下がらない場合に使用します。すでにヨーロッパ、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどでも発売されており、現在までに延べ8万件以上の手術に使用されており、従来の緑内障手術と同等の眼圧下降効果や、手術に伴う合併症が少なくなる、術後早期の視力回復が得られることなどが海外で報告されています。

3.アルコン エクスプレス®緑内障フィルトレーションデバイスを用いた手術方法

1.結膜および強膜と呼ばれる白目の部分を切開します。
2.針で眼内へ穴をあけます。

3.アルコン エクスプレス®緑内障フィルトレーションデバイスを眼内に挿入します。

4.挿入後、切開した強膜を閉じ縫合します。(※通常2~6針縫合します。)

5.結膜を縫合します。

<アルコン エクスプレス®緑内障フィルトレーションデバイス挿入イメージ>

目の中のイメージ

挿入後の外観

4.予想される効果と有害事象

この緑内障インプラント医療機器を使用した緑内障手術を行う事により、眼圧を下降させ、視野障害の進行を抑制することが期待できます。
主な有害事象には以下のようなものがあります。
角膜障害、白内障、濾過胞炎・眼内炎、駆逐性出血、眼痛、頭痛、視力低下、高眼圧及び低眼圧による網膜の障害、乱視の増加など

5.術後に関して

この手術後早期の目標は「手術が適切に施行されて目標の半分」・「術後眼圧の良好なコントロールが達成できて半分」です。
その場面に応じた点眼や内服薬処方の他に、観血的緑内障手術に特徴的な手術・処置について以下に述べます。

術後の眼圧が高い場合

1.LSL:laser suture lysis: レーザー糸切り術
術後早期に行われる処置で強膜弁を縫合した糸(上図4の縫合糸:通常2~6針)をレーザーで切糸し、強膜弁を介して眼外に流出する前房水を増やし、眼圧を下げます。1回の処置で1~2本程度、縫合糸をレーザーで切ります。およそ3分以内で終わります。
2.濾過胞再建術・流出路再建術:
術後しばらくしてから行う処置で、目標とする眼圧を達成できない場合、術創の癒着した部分を剥がしたり、マイトマイシンC(抗がん剤の一種)をもちいて再癒着させないようにしたりなど、もう一度眼外に前房水が流出する機構を整える手術を行います。

術後の眼圧が低い場合

1.再縫合:
過剰に流出している部分を特定し、縫合を追加。前房水の流出を抑えて眼圧が低いことによる合併症(低眼圧黄斑症や、前房虚脱による角膜内皮障害) が生じないようにします。

6.術後に注意すること

頭部MRI検査(磁気共鳴画像診断装置による検査)をお受けになる場合は、磁場強度3テスラまで可能ですが、術後2週間以内のMRI検査はデバイスの固定が安定していないため、推奨されません。 (ただし、脳出血や脳梗塞など、重大な病気が疑われ、緊急性を要する場合のMRI検査は致し方なしと考えます。)

7.手術の実際の流れ(血をみることなどに気持ち悪さを感じる方はご遠慮ください。)

麻酔は点眼麻酔とテノン嚢下麻酔で施行します。患者さんは術中ほとんど痛みを感じずに手術を終えることができます。
1.結膜を剥離し、強膜を露出します。四角形のfirst flapを作成

2.さらに強膜弁をもう一枚作成します。(double flap technique 強膜弁下にlakeを作成することで強膜弁と強膜下組織の癒着を防ぎ、かつ濾過胞の長期持続による眼圧下降効果を期待します。)

※<シングルフラップ例>
最近の報告では、ダブルフラップよりもシングルフラップのほうがExpress®の安定性がよいとされ、強度近視やぶどう膜炎の既往で強膜の菲薄化を認める方は以前からですが、そうでない方もシングルフラップを採用することが多くなってきました。(黒い糸はExpress®挿入後、前房虚脱前に直ちにフラップを縫合するためあらかじめ通糸した10-0ナイロン糸です。)

3.マイトマイシンCを浸したMQA®(血を拭くスポンジのようなもの)を強膜弁下や結膜下に静置し、3分待ちます。

4.マイトマイシンCを洗浄し、Express®を挿入します。

5.強膜弁に10-0ナイロン角針4針かけたところで過度な房水漏出がないか確認します。

6.10-0ナイロン丸針で結膜を連続縫合します。

7.角膜サイドポートより人工房水をいれ、濾過胞がきちんとできて、かつ房水の漏れがないか確認し手術は終了です。(約30分です。)(6に比べ画面下の結膜がぷくっと膨れているのがわかりますか?これを「濾過胞」といいます。)

8.長期経過した患者さんの例

上耳側に挿入し、5年経過しましたが、位置ずれなど生じず、経過良好です。

 

症例2

※患者さんの頭側に座って手術をしていますので、手前が頭側、奥が足側、画面右は患者さんの右側になります。
 
➀ 前回の手術創を目安に、耳側上方に皮膚ペンでマーキング(時計の針で6時、9時方向)をする


 
②角膜に眼球制御のための通糸をする
(角膜の上に乗っている白い四角のスポンジ状ものは角膜を乾燥から守るため、また患者さんにとってまぶしい顕微鏡の光を避けるためのものです。

 
③濾過胞(眼内にあるお水「房水」を結膜下に流し、ため池のような働きをする膨らみをいいます)を作成するために結膜下と強膜(眼球の壁)の間に空間をつくります。

 
④結膜の下にある強膜に強膜弁を作成します。

 
⑤結膜下、強膜弁下と上方とにマイトマイシンC(抗がん剤の一種)を湿らせたスポンジを3分置きます(創口が創傷治癒機転により閉鎖、癒着による前房水の濾過効果減少を防ぐため)。

 
⑥マイトマイシンCを洗浄したのち、強膜弁下インプラント挿入部位に25ゲージ針で先に前房内に穿孔させ、インプラントを挿入します。

 
⑦10-0ナイロンで4針強膜弁を縫合します。
その後、10-0ナイロン丸針で結膜を連続縫合します。
最後すごく細い糸なので切れないように、慎重に締め上げ、濾過胞の出来を確認し、終了です。

 
この患者さんは術前の状態では緑内障点眼を4種しても20mmHg以上眼圧があったのが、術後10mmHg前後で落ち着いています。長期的には眼圧が再上昇することもあるため、注意して経過観察することが必要です。